フタリの唄


「ココ」は地球は死ぬ寸前だったけど
発達しすぎた科学が命を取り留めた。
けれど住む人間たちは命を軽く見すぎた。
人を殺したり盗んだりすることは当たり前になった。
イッカサツジンジケンとかが起きてもニュースにも取り上げられなくなった。
そんな人間たちなど 無くなっても良かったのに とか
俺は思ってたけど。


ここがどこ、とか自分は誰、とかいまはいつか、とか
そんなもんどおでもいい。
もちろん人のため、とか自分のため、とか
なんか感じることとかあの最後の感覚も
もう 忘れた。
いちばんだいすきだったもの なんだったっけか。
「俺、人と目ぇ合わすのずっと怖かったよ。今もすげぇ怖いんだよ」
「誰かが俺に話し掛けると心臓がやたら速くなんの。」
「オマエ以外の誰かの顔マッスグ見るとスグ息詰まって、そんでよく吐いちゃうんだ」
「どおしよ、俺やっぱだめだ。頭グラグラしてくんもん。」
「誰のためとか全然わかんねぇの。グラグラしたまま考えると俺の意味とかもっとわかんねぇ」
忘れたい記憶だけ忘れられない。気分が悪くなる。
忘れられないなら忘れられないことごと忘れよう。

このハデなネエチャンは人買いで、
俺は人市の商品で、
このハデなネエチャンに、
俺は買われてくんだって。
1円が超貴重なこのジダイに、
1200円だかなんだかで
俺、売られてくんだって。
へぇ。俺そんな高く買われるもんだったっけ。
まぁいいけどさ。

もうなんも聞きたくないしもうなんも見たくないし
もうなんも なんも感じたくもない。
髪だって別に切んないし。もう肩についちゃうけどさ。
服もなんにち同じの着てんのかわかんない。けど
別にいいし。
もうなんも見たくないのにイマのココは何でこんな眩しいんだろ。
ネオンばっか無駄にぴかぴかちかちかしてさ。ラスベガス?
別にいいけど、眩しいのはウザイよ。
俺に、嫌味のつもりですか。
「あらぁやっぱりいいわね、え、今年19歳?
あらあらあらぁ、若いわねぇ、いいわねぇ、ピチピチじゃないのお、細っこいからだしてぇ」
何このひと。俺のことぺたぺた触りすぎ。きもちわるい。
こんなひとに俺買われんのか。
「まずはお風呂に入って、新しいお洋服を着せて、髪の毛を切らないとね!
あらもうやだあ、やることが沢山だわぁ」
ハデなネエチャンぶったハデなオバサンは俺のことオニンギョウみたいに言った。
もう人間でも人形でもどっちでもいいよ。すきにしてくれ。
からだぺたぺた触られても手繋ごうとされても、ずっと俺下向いてた。
したら、俺の腕、誰かに掴まれた。
ちょっとびっくりして後ろ振り返ったら、シラナイひとが俺の腕を掴んでた。
なんかわかんないけど不安そうな顔してちょっと息切らして。
髪の毛サムライみたいに高く結んでデコ丸出しのおとこ。
一瞬 このやたら広いデコ やけに慣れた感じがしたけど。
まぁ、デコの広い人間なんていっぱいいるし。すぐ思い直した。
俺 なんかばかみたい。前からばかだったけどさ。
そんくらいのこと思ってたら、イキナリ引っ張られた。
勝手に俺の腕掴んだままゼンリョクシッソウしちゃってるし。
なんなの、これ。俺はいま、あのオバサンのオニンギョウになるとこだったのに。
そんで大事にされて飾られる予定だったのに。めちゃくちゃだ。
けど あのオバサン、まだ俺の代金払ってなかったから今頃別のヤツ買ってるかな。
「ねえ、やっぱそおでしょ!こおちゃんでしょ!コオでしょ!」
な、な、なに?ダッシュしながら聞かれても。予想しねえよ。こお?って、俺?
「ちょ、ちょっと。マッテ。誰のこと?」
「オマエのことだよ!ウレシイよ!また会えた!俺、サトだって!サトウシュンスケ!」
サト?サトウシュンスケ?……………………え、ちょっとまって、ホント…
「コオにもっかいあいたかったんだよ!」
屋台のオレンジのちょうちんとか ちかちかのネオンとか 全部
足速いサトウシュンスケのおかげで俺の横に流れてく。
まっ、まって、マジデ。どうしよう。
どきどきしてきた。掴まれてる左腕からどんどん熱くなってってる。
「どゎ」
急に曲がって暗い狭い路地の、突き当たりのすぐ左のはしっこ。
いろんな灰色の部屋が並んで、その中のいっこに入って止まった。
息が荒い。どおしよ。ヤバイ。どきどきがとまんない。 ……えっと、ほんとに?まさか。
「…………さ さと…?」
息は荒いままで言った。じぶんいますごいビックリした顔してる、多分。
ハァハァ言いながら下向いてた彼が赤い顔を俺の方に向けて笑った。
そん時、はじめて 懐かしいオマエに再び会ったってわかった。



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