あのころが終わんない日


ねぇ、これで最後なんだって。
毎日遊んでさぁ、毎日バカな話して過ごすの、
これで最後なんだって。
明日からはもう、オマエがいないって信じらんないよ。

ねぇ、これが一緒に居られる最後の夏なんだって。
「はぁぁ〜涼しいーー」
白い壁の狭い四畳半の部屋、3つある窓は全部閉められて、
せみのこえはすこし遠くになって、いつもと同じメロディーが流れる。
ノースリーブの腕に冷たい空気がくっつく。
急いで靴下を脱いでかばんをその辺に投げといて、グシャグシャの布団の上に立って
クーラーの前で服をばたばたやる。
ピーンポーンってチャイムが鳴ったら、最近買ってもらったお気に入りの指輪をはめて
台所に走ってく。蒸し暑い部屋の中で足の裏だけ冷たい床を感じて、
冷凍庫から細長いチュ-ペットを1本取り出す。
玄関を開けたら暑そうなオマエが立ってて、むーんとした空気がこっちに入ってくる。
半分に折ったら、ちゃんと持ち手がついてる方をオマエに渡す。
おさいふなんか持たないで、携帯電話なんか持たないで、サンダルを履いて。
オマエが乗って来た自転車の後ろに立って、オマエの肩につかまる。
チュ-ペット食べながら片手運転、すっごい危ないけど気持ちいいからスピード上げてく。
「なぎっさーへいこおーーのりっこんでいこおーーリーズームーにーあーわーせーてーさーそーわーれーそーおぉー」
「リーズームーがーはーじーけーてーこーいーすーるーモーオドー」
さっきまで流れてたいつものメロディーを一緒に唄う。
がきんちょの2人は渚になんか行くわけないしせいぜいあっちの本屋さんくらいまでしか行かないのに
そんな唄 いとも簡単に唄ってる、いつのまにか。その、いつもの2人だったら。
「あっついんだよおーー」いつもアイス買う酒屋の前で、自転車止めてみる。
ずっと右に行くと学校の裏の雑木林に着く、あの道。
「ねぇ例えばさ、どっか行ってみよっか」
「うん、どっか行ってみよっか。」
「ほら、右とか左とか、適当に言ってさ、着いたとこ、行ってみよっか。」
「てきとおーに、行ってみよっか。」
「どっか、わかんないとこ行ったらどうする?」
「だいじょぶ、そしたらのじゅくしよう。」
「そおだね、のじゅくしようね」
「のじゅく」の意味なんて知らないし「のじゅく」しなきゃなんないとこまで行けるわけない。
がきんちょの2人は渚になんか行くわけないしせいぜいあっちの本屋さんくらいまでしか行かないのに
怖いことの意味なんて知らないし野宿しなきゃなんないとこまで行けるわけないのに
そんな唄 いとも簡単に唄ってる、いつのまにか、いつも。その、いつもの、2人だったら。
ねぇ、これが一緒に居られる最後の夏なんだって。
だけどさぁ、あたしはまだ覚えてんの。おそろいのブレスレット100円で買ったあの夏のあの日のあの時のこと、まだ。



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