僕は まあ ある意味 文房具屋。売ってます。
だけど今は 色売り。…色。売って ます 一応。
なんで一応かってひとりにしか 色なんか あげてないからね。





なくした空を点すひと





文房具屋、だったんだ。
絵 描くの、前から好きだったから。
だから絵描きながら文具、とか 画材とか売ろう って
割と小さい頃から思ってた。
それでバイトするなら店出しちゃおうって半年くらい前、凄く小さい文房具店を開いた。
なるべく安くて良いものをちょこっとずつ仕入れて売って、そこそこ売れてた。

うん、ほんとに、そこそこ。
僅か 2ヶ月くらい 、だったけど。

いつのまにか文房具屋じゃなくて色売りって呼ばれるようになった。
新聞もテレビもないからあんまり詳しく知らないけど、どっかの戦争で色んな物資が不足して。
「色を付ける」ための道具なんか作ってらんないくらいお金も減った。
それでも最初は草木なんかで染めようとか一生懸命だったけど
コンクリの成分吸った草なんかじゃ染まんなくてだめで
気付けば 街は 白か コンクリートの灰色か 炭とか木炭とか あと排気ガスとかの黒。
そんだけ。
そのうちあっという間に文房具屋、商売上がったり。
仕入れしてた会社が次々倒産。文具や画材がひとつも買えなくなった。
絵の仕事以外なんかやりたくなかったから絵を売って暮らそうかとか色々考えたけど
もともと木炭や鉛筆のデッサンなんかじゃ物足りなくて納得いく絵だって全然描けない。
求人情報誌ってやつに手ぇ伸ばしかけたとき、
どっかの誰かがセメントと果物からクレヨンを作る方法を考え出した、ってきいた。
詳しく聞けば、濃いセメントにちょっと食用油を加えたりするとそれがクレヨン特有の油分になってくれるって。
果物は例えばリンゴの皮とかちょっとでも色素の含まれるものをいれれば良いらしかった。
やっぱりそれなりの量は必要でちょっと大変だったけど
果物の皮や蜜を混ぜれば微妙な色のクレヨンも出来たし さっそく沢山作って絵を描いて、売った。
僕お手製の色のクレヨンは前より良く売れてくれた。
この微妙な色合いと、クレヨン独特の描き心地が凄くピッタリしてるって誉めてくれる人もいる。
クレヨン売りになったはずの僕は たちまち、色の不足した時代に色を売る人だと 色売りだと 呼ばれるようになった。
荒んだ白黒の時代に、色を売る色売り。
その後 白黒の時代の次に訪れた時代は
原色の時代 いきなり姿を現した 原色の街――
色に飢えていたひとびとに、セメントクレヨンを作る方法は知れ渡り流行し、自分の好きな色だって蘇って、
自分の好きな色が世界で1番美しい色だと 色の主張が始まった。
街に溢れる原色。
血の様に真っ赤な家
近未来の象徴だという蛍光色
白をより白くより明るく 夜道が暗くないようにと発達した眩しいほど白い街頭
色んな色のパッチワークの服
ラスベガスの電飾なんかめじゃないほど、溢れに溢れる色。
絵を描くのが大好きな僕
見える景色は色の洪水だけで 魅力を感じる景色はどこにもなかった。
見上げれば、白黒の時よりも高いビル。
隙間から見える 僅かな 空色。
僕はクレヨンを売るのをやめた。
これ以上色を売ったって 必要ないじゃないか。こんなにも 色が溢れた街じゃ。
…あーあ…。
やりたいこと、なくなった。なくなった どうしよう
ひたすら ほんとに目に入るもの 全て ムカついて 無くなった空色のクレヨンばっかり作って
あと ほら 夕焼け色、とか。そんな色のクレヨンばっかり作って、空とか、空想の町ばっか描いて 壁にはったりして
あとはただ寝て 1日過ごして 挙句の果てには何が本当なのかわかんなくなって
そんなのばっか繰り返して2週間がすぎた くらい のとき。
あなた が 訪ねて 来たのは。

「あなたは 色屋さんなの?」
店は家と兼用で壁に沢山絵があったからか 訪ねてきた彼女は 最初にそう言った。
僕は仏頂面で 「いいえ 色はもう ないんです」と答えた。
笑顔なんかとっくに忘れてた。
彼女は「だけどすてきな 絵を描くのね」と僕を見て言った。

「…どうも ありがとう。」
「あなたの言いたいこと よくわかるのよ。全部 出てるの。この絵に。全部よ。」
どう 答えれば良いのか わからなかった。
自然と 唇が 震えて 視界が 歪んで 何故か
「良かった この町で まだ空が生きてて」
その時にはもう視界は歪むどころじゃなかったよ。
「あなたは 空なのね」
そう言って笑うあなたは あなたこそ
「…きみの 方が 空 みたいだ よ…。」
また 柔らかく笑うあなたが 空みたいなんだ
「…凄く綺麗な色のクレヨンね あなたが これ作ったの?」
「…そう だよ」
「もっと 見せてほしい あなたのそら」

あぁ また見えたなぁ 綺麗な色が
きみの えがお どんな色より どんな空より
「また 描く。このクレヨンで、絵 描くよ そしたらまた 見て。…笑って ね。」
あぁほらまた 夕焼けみたいにきみは 笑う。
僕の空色のクレヨンで 何より綺麗な空を描くよ

だいすきだよ だいすきだ

これがあるからまた 僕色のクレヨンで僕にしか描けない絵が描ける そう思える もの

僕の空色のクレヨンで 何より綺麗な空を描くよ
僕の空色のクレヨンで 何より綺麗なきみの笑顔を 描くよ。







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