いつもの笑顔で笑ったんだ

もうその笑い方しか出来ないことぐらい解ってる



ワンリブ



「俺がいつも 守りたいと 思うんだけど なぁ」
最初に言う決まり文句だ
もう解ってる

それはおまえじしんなんだろ

電灯を点けないで薄暗い
隣にあるのはビルだから光はさしこまない

古いマンションの夕方の匂い。
腐りかけた崩れかけた世界の臭い。

お前はずっと前から黒と赤の服が好きだね。
前髪を目が見えなくなるほど伸ばして、
横には段を入れて顔を半分見えなくなるくらいに隠す
そのまま下を向いてドアの前に立ってた。
久し振りだね
心の中で言ってみたけどまるで隣のカイブツの様に中身の無い言葉だ。
黒がやたら目立つお前は肩を揺らして少し苦しそうに軽く息を吸った。
ドアが後ろで音を立てて閉まったと同時にお前は喋った。
「上手く 喋れ ないけど …、聴いて 」
たったこれだけの文章を口にするだけで沢山言葉を切った。
ドアの閉まる錆びた音とお前が喋る小さくて低くて少しかすれた声の違いはほとんど無かった。
だけどあたしがききとれたのはやっぱりお前が鳥だからだろう。
鳥は少し眉をひそめて少し瞬きをしてさっきの様に震える息を吐く。

そのめは空虚しか見つめない。

「…いつも 俺が 守りたいと思うんだ」
もう何度目かな
脈絡の無いその言葉で、かすれた声で唄い始めるのは
そんな時あたしは大抵少し間を空けて隣に座ってるときだから
あたしも真似して目線より下の空虚を見つめてみる。
お前のように上手に出来ていないだろうけど

鳥は何度か長く唄ったことがある
いつものその言葉から始まって長い時間をかけて何てことない言葉を繋ぐ
何度も息を吸ってから語彙の少ない子供のように必死で言葉を紡ぐんだ
「なのに ことばが うまくでない」
「いつも 泣いてるのに  うまく」
鳥の声が震えたのであたしは鳥が泣くかと思った
鳥は泣かなかった
鳥は泣けないんだと思った

その後は全く空白の時間
隙間から漏れる黄金色の光に舞う塵が段々消えて見えなくなるような流れの見えない時間
目を閉じていたか開けていたかも判らないほどの時間
短かったとか長かったとか形容しようの無い間の時間
鳥は悔しそうに少し笑うように顔を歪めて
「自分のことが上手く言えない」
と呟く
コンクリートをゆっくりと覆う液体のような重量を持って流れる唄
まるで音がひとつも聞こえない錯覚を起こした。
それを感じるのももう何度目か知れない
空虚の間を計れないように、塵の数を数えられないように、咲いていく花を見極められないように
ただひたすら重量をもって埋める。
全てを埋めて感覚を狂わせ錯覚を標準にかえようとする。
其処から抜けることが出来るものは誰も居ない。
飛べない鳥に、飛べと言うのも歩いてわたれと言うのも無理な話だ。

それならそのとき、鳥はどうする?

もし問いかけるとするならば問いかけが残っていたならば
そのとき 鳥は

声を振り絞って存在価値を伝えに来るんだ
ボロボロの羽根を引きずって
あたしのところへ、来る。

確証はひとつもないのに。

ましてや飛べるようになるわけでもない、のに。

その液体にあたしもとっくに覆われてる
泣こうと思っても泣けない眼を作り出された
すでにもうずっと前から 鳥の虜だ。

この様子を 1番きれいな言葉を使って形容するならなんと言う?

「俺は守れる言葉を持ってない」

鳥は呟く

さあ なんと言う?



とりたての心臓みたいだった文章がどれだけぼかされて心臓の標本くらいにはなっただろうかね?(?)
だけどもとても気持ち悪いです。こういう中身をこういう場所でっていうこのことが。
怖いというのやら緊張するのやらも混ざってる



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