あんな作文 死を近くに感じないから書けるのだ。
そう言って ひたすら紙を丸めて棄てた あの頃が少し懐かしい。
だけどもう大丈夫だ。
僕は限りなく美しい声の真っ白い犬を手に抱いた。
彼女と一緒に もうすぐ行くよ。
さあ 君に 何から話そうか。
君が泣くのをやめないなら まずは最初に 涙を止めるための 光の話をしようか。


柔らかい光


あるところに キャラメル色の髪をした男の人が居たんだ。
彼はいつも分厚い生地の 灰色の帽子をかぶっていて
いつもの丘で 月の満ち欠けを見守っていた。
「あぁ 今日の月は 美しい半月だ。」
そう言いながら 月に焦がれて 星を握っては微笑んでいた。
ある夜の日 いつものようにいつもの丘に来ると 分厚い雲が渦巻いていた。
満月だった。
『ばかな灰色帽子め ここはお前の空じゃない 見りゃわかるだろう お前なんかにわたさないぞ』
月明かりの見えない真っ暗な夜 灰色雲は彼に向かってそう言った。
彼は初めて灰色帽子を脱いで叫んだ。キャラメル色が踊るように飛び出したんだ。
「ばかな灰色雲め そんなことはわかってる ここは俺の空じゃない これからお前に見せてやる」
灰色帽子を脱ぎ捨てた彼は走り出した。
それはまるで風のようにはやくて 渦巻く灰色雲か追いかけるのがやっとだったほどなんだ。
キャラメル色の靴がぴたりと止まるとはちみつ色の砂が舞った。
はちみつ色の砂が彼を包んで落ちた時 灰色雲が見たのは水平線だった。
「俺がこれからそっちに行くよ そしたら月は わたしてもらう この手に掴むって決めたんだ」
灰色帽子を脱いだ彼はまた風のように青の中を泳ぎ出した。
それはそれははやくて 黄色と黒の魚が追いかけるのがやっとだったほどなんだ。
彼が泳いだあとの真珠のような泡はすぐに消えて それから彼は一度も雲の前に現れなかった。
灰色雲達は彼に追い付けなくて 追い付くために急いだら追い抜いて
それから遠くに流されてしまい 美しい満月がまた現れたんだ。
美しい光を放つ美しい満月は海の水面にきらきらと映された。
波はゆらゆら揺れて光は広がり それからずっと曇らなかった。
灰色帽子はそのあと ずっとずっと月のうさぎと話をして
灰色雲とも仲良くなって 同じ空から月をまもることにしたそうだ。
そうして彼は月を手に入れ
灰色帽子もキャラメル髪もはちみつ砂も 月のうさぎも 微笑んだんだ。






「あるところに」ではじまる短い物語がかきたかった。

限りなく美しい白い犬は、語り部の言葉を美しくするんです。
それを見つけた語り部はしっかりだきかかえて泣いているものの隣に座った。
泣き顔を見ないようにまっすぐ前を向きながら、その場限りの即興で作った短くて意味の薄い物語。
涙をとめるために必要だったのはためになる話じゃなくて白い犬を見つけた語り部の窓のあいたこころ。
いっしょうけんめい書き留めた傑作の小説よりもそういうこころのつかいかたが大事だと気付いたから、犬は自分から語り部の隣によっていったんです。
だから語り部は自然と微笑める話を話すことができた。
きっとこのあと泣いている「君」は真っ赤な目をした真白いうさぎをしっかりだきかかえて微笑むはずなんです。
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